『   深き淵より  ― (1) ―   』   

 

 

 

 

 

***** 注意報発令 !! *****

パロディです、コメディっぽいです!

苦手な方〜〜〜 引き返しましょう!

お願いです お願いです ・・・ 

 

 

 

 

 

 

 

 

    その夜  星が流れた ―

 

 

「  ・・・ う ・・・ ん ・・・ ? 

フランソワーズは微かに眩しさを感じ 形のよい眉をすこしだけ寄せた。

しかし その煌きはほんの僅かな間で カーテンの隙間から忍びこんだ細い光にすぎなかった。

彼女はゆっくりと顔の向きを変えると 相変わらずすべすべとして気持ちのいい恋人の胸に頬を押し付ける。

 

     ・・・  なんだ ・・・ 夢 だったの ね ・・・

     あ ・・・ いい気持ち ・・・

     ジョーの 胸って ・・・ いつも温かくて ・・・

 

彼女だけが知っている彼の香りを 全身にからませて彼女は小さく欠伸をした。

まだ ・・・ 夜明けまで時間がある。   ゆっくり眠ろう・・・

 

     だって ・・・ 疲れちゃったわ ・・・

     ・・・ もうだめっていうのに ・・・ しつこいんだもの・・・

     ふふふ ・・・ でも ・・・ いつも す て き♪

 

ほう・・・  満足の甘い吐息を洩らすと 彼女は再び眠りの淵に落ち込んでいった。

心と身体の奥まで ― 熱いものをいっぱいに貰いすっかり満ち足りて・・・

 

     ・・・ お  やすみ ・・・ あいしてるわ ・・・ ジョー ・・・

 

彼女が夢うつつでつぶやいた言葉は  そのまま夜の帳の中に溶け込んでいった。

 

 

 

 

  その夜  星が流れた ―

 

 

「 ・・・ん ・・・ な んだ い・・・? 」

ジョーは 腕の中の恋人がかすかに洩らした呟きに ぼんやりと答えた。

昂まりと怒張の熱さの波はゆっくりと引いていった。

今は 渚をゆらゆら漂っている心地好さと海風に吹かれる爽快感で一杯だ。

ジョーは ゆっくりと腕を動かし 恋人の身体を引き寄せる。

 

      ・・・ なんだ ・・・ 寝言か ・・・

      ああ ・・・ だるいくらい ・・・ 気持ちいいな ・・・

      この身体は ・・・ 最高だ・・・よ ・・・ いつも 

 

細身だけれど引き締まり、それでいてとろとろと纏わり着いてくる内腿の感触に

ジョーは再び ほんのすこしだけ呻き声をあげてしまった。

 

      あ ・・・は ・・・ ヤバいかなあ・・・

      ふふふ きみがこんなにステキすぎるからいけないんだぜ?

      いつもその度に ちがう ・・・って 感じるのは どうしてかな・・・

  

ふう ・・・ 充足の深い溜息を吐くと、彼はゆっくりと手足を伸ばした。

心と身体のすみずみにまで 活力が漲ってゆく ・・・ それは 愛の活力 ・・・

 

      ・・・ お休み ・・・ ぼくの フラン ソ  ワー ズ ・・・ 

 

彼の甘い呟きは 彼女への口付けの中に溶け込んだ。

彼と彼女は ぴたり、と身体を寄せ合ったまま ・・・ 共に眠りの底へと落ち込んでいった。 

 

 

  

        パ ァ  −−−−−−− ン ・・・・・・ !!!    

 

 

        その夜  星が  流れ   ―  そして ―  地に   落ちた

 

 

 

 

 

周囲は 緑のトンネル だった。  

いや 木々がびっしりと生い茂り葉を重ね、昼なお暗い緑のドームを作っているのだ。 

右も左も 緑、 上からの木漏れ日が唯一の灯りとなりぼうっと足元を照らす。

「 ・・・ ここは ・・・ いったい・・・ ? 」

フランソワーズはゆっくりと立ち上がり 手近な樹の幹の陰ににじり寄った。

「 いったい ・・・ なにがおこったの ・・?? 」

そろそろと周りを目視し、 すぐに < 眼 > を使いはじめた。

「 ・・・ おかしいわ ・・・ 本当にどこまでも 緑一色。 でもそんなはず、ないわね。

 ということはどこかで視覚を惑わしているということだわ。 なにか装置がある・・・? 」

彼女はレンジを最大に拡げてみたのだが ―

 

    ― チチチ・・・・ チ   −−− !

 

緑の天井のもっと上を旋回する鳥の姿が見え、その声が聞こえてくるだけだ。

「 あら。 鳥がいるってことは少なくも動物はいる、ということね。 それじゃ ・・・ 」

< 耳 > のスイッチも稼働させていた。

「 ? ・・・ 木々の葉擦れの音 と 鳥の声 ・・・ あと梢の上に吹く風の音・・・・

 それだけ?   ここは ― 静かだわ。 静かすぎる ・・・   あ ・・?! 」

 

    カサリ ・・・ カサ カサ ・・・

 

後方から下草を踏み分ける音が近づいてきた。  二足歩行の音だ。 少なくとも動物ではないらしい。

「 ・・・・! ・・・・ 」

フランソワーズ、 いや 003は反射的にスーパーガンを構え振り向いた ― 

 

「 !? ・・・ フランソワーズ!!! 」

「 !  ジョー ・・・! 」

 

眼の前には彼女がこの世で一番よく知っている青年が 立っていた。

 

 

 

「 え・・・ やっぱりジョーも?  そうねえ、気がついたら・・・ここに、この森に居たわ。

 ベッドですう〜っと眠りにおちて ― ほんの一瞬後に眼を開けたら・・・ 」

「 そう。 この緑の森の中にいた、ってわけさ。 ぼくと同じだよ、それに・・・ この恰好でね。 」

「 ・・・ ええ そうね。 」

二人は互いの見慣れた赤い特殊な服に苦笑しあう。

可笑しなものだ ― あまり好きになれないこの服が 今は頼もしい戦友に思える。

「 どうだい、なにか ・・・ 見つけたかい。 」

ジョーの問いに 彼女はただ首を横に振った。

二人は 大きな樟と思われる木の根方に座りとりあえず周囲の様子を観察することにした。

「 そうか。  ぼくもベッドで寝入る寸前になにか ・・・ 激しい衝撃があった・・・と思ったんだ。

 もしかしたら、ぼくの夢だったのかもしれないけど。 」

「 ・・・多分 本当だと思うわ。 わたしも ・・・ あ 眩しいって思ったの。

 でもすぐにその光は消えたから 寝ぼけたのかなあって思っただけだったわ。 」

「 う〜ん ・・・ やはりな。  アレは現実だったってことだ。 」

「 そうみたいね。  でも ・・・ ここ・・・ヘンよ。 」

「 なにが。 」

「 ず〜〜っと ず〜っと・・・ < 眼 >のレンジを最大にしても緑しか見えないの。

 < 耳 > も同じ。  森の音が拾えるだけなのよ。  ・・・・ そんなこと、有り得ないでしょう? 」

「 ものすごく深い森なのかもしれない。 」

「 それでも 何らかの人工の音は聞こえるはずよ。 この静けさは かえって不自然だわ。 」

「 うん。 確かに ― ここの自然はホンモノだけど周囲になにかトラップの類があるな。 」

ジョーは手を伸ばし下草を千切り 地面の土を少し引っ掻いた。

「 ここに居ても仕方ないよ。  ― 行こう。  ともかくこの緑の檻から出なくては。 」

「 そうね。  ・・・ ああ よかった・・・ 」

「 え? 」

「 ・・・ ジョーと一緒でよかった、って言ったの。 一人だったら・・・どうしてよいか判らなかったかも・・・ 」

「 003が何をいっているんだい?  ぼく達 一緒に・・・眠ったろ? 」

「 ええ ・・・ そうよね。 」

「 行こう。  索敵を頼む。 」

「 了解。  ミッション、開始ね 009。 」

「 ・・・・・ 

ジョー・・・いや、009は ニ・・・ッと笑って 003の前に立って歩き始めた。

009は前方を 003は左右・後方を広く偵察してゆく。

これは二人が組んで行動する時の定番パターンなのだ。

 

 

「 本当に 静かすぎるな。 動くものの気配がまるでない。 ・・・うん? どうした。 」

  ― カサリ。  

緑濃い森から脱出しきらないうちに 彼女の脚がとまった。  じっと上空の一点を見つめている。

「 ・・・ なにか くる・・! 」

「 え? 方角を言ってくれ。 西 か 東 か!? 」

「 ・・・ 東よ! でも あれは・・・? あれは  なに・・??  」

「 003。  脳波通信で自動的にデータを送れ。 ・・・ 着信した。  ・・・了解。 」

「 ・・・ 来る・・・! 今 わたし達の上空に ・・・ 来た! 」

「 よし。 一緒にねらってくれ。  いや、撃つな、ぼくが合図するまで ・・・ 牽制するんだ。 」

「 ― 了解。 ・・・だけど・・・・あれは・・?? 」

「 なんだ?? 詳細を報告してくれ。  ・・・ あ ああ・・??? 」

 

    ザザザ −−−−−− ・・・・・

 

突然 頭上を覆っていた木々の梢が 葉が  ・・・ 左右に分れた。

間からは 澄み切った青空が覗いた。  随分と高い空だ・・・

「 空が・・・ でも なにも見えないぞ?  003、 なにが来たのかい。  」

「 ・・・ ジョー ・・・ あ  れ ・・・ 」

「 え?  う ・・・ な、なんだ?? 」

彼女が指す上空には  ゆらゆらと薄い映像があらわれ次第にヒトの形になってゆく。

「 な・・んだ?  ・・・ 人間 ・・・・? それも ・・・ 女性? 」

「 009!  あれは 実態じゃないわ! ホログラフィ、とも違うけど ・・・ わたしの <眼>では

 透過してしまって見えないの。 普通の視力なら見えるのだけれど・・・ 」

「 なんだって?   じゃあ あの紫色の人物は・・・? 」

 

    ああ  ・・・ やっと帰ってきてくれたのですね

 

ずん ・・・と 音声ではない声、が二人のこころに届いた。

「 !? テレパスか・・?  003、きみにも聞こえるかい。 」

「 ええ。 でも ・・・とても 痛い声だわ。 」

「 痛い? 」

「 そう・・・ この声、敵意を持っているわ。  ピンピンわたしの心に突きささる・・・ 」

「 え・・・ ぼくにはそんな風には感じられないぞ?  003、ぼくの後ろに回るんだ。 」

 

    待っていました。  きっと ・・・ 戻ってきてくれる と・・・

 

「 了解。  ・・・ うう ・・・ いた ・・・! 」

ジョーの背後で 彼女は低く呻いた。

「 !? 大丈夫か?  ・・・・よし 撃つぞ。 」

「 あ、だめ、009 ! まだ敵意があるかどうか わからないでしょ。  ・・・ う ッ・・・ 」

細い指がぎゅ ・・・っと彼の背に喰い込んだ。

「 おい、しっかりしろ。  ふん、 これが敵意でなくて、なんなんだ?

 ぼくは許さない !  きみを傷つけるもの、全て・・・許さないッ ! 」

ジョーは 片手でフランソワーズを背後に庇いつつ高くスーパーガンを掲げた。

「 ― くそ、よくもぼくのフランソワーズに! 」

 

    お止めなさい。  ワタクシにそんなものを向けないで・・・ ジョー。

 

「 ・・・どうして ぼくの名を知っている?  ・・・ お前は 誰だ?! 」

「 ・・ ジョー・・・ だめ ・・・  アレに引き寄せられ・・る・・・ ううう ・・・ッ 」

がくん、と彼女の身体が ジョーの背に倒れかかってきた。

「 フランソワーズ!  ぼくにしっかり掴まってろ!  

 チクショウ、目の前に見えるのに! 座標軸が全然わからない・・・! 補助脳に送る数値が取れない・・・ 」

「 ・・・ アレは 実体ではないから よ ・・・うう ・・ アレは 思念の 塊 ・・・ 」 

「 なんだって?  しかしどこかに実体はあるはずだ! とりあえずアレを撃つ! 」

 

    聞き分けのない子ね・・・ それじゃ 一緒に帰りましょう

   

「 ― くそッ!  フラン ・・・? きみも撃てるか? 」

「 ・・・ え  ええ ・・・ ジョー、肩に  ・・・ 掴まらせて・・・ 」

「 ああ。 しっかり掴まれ。  よし・・・! 」

 

    ふふふ・・・仕様が無いコねえ、悪戯っこさん。

    さあ いらっしゃい。 ウチに帰りましょう 

 

    ・・・ワタクシはあなたの 母 です

 

「 ?! な ・・・・ ? タチの悪い冗談はやめろ! ・・・?? あ?? ああ〜〜 ! 

「 ・・・?  ジョー ???   ジョー 〜〜〜〜〜 !!! 」

フランソワーズの目の前で ジョーの身体はするすると中空に持ち上がった。

 

    やっと 還ったわね、 ジョー ・・・私のボウヤ ・・・

 

「 ・・・・・・・ 

「 ジョー!?? 」

空に現れた人物は 両腕を広げるとしっかりとジョーの身体を抱き締めた。

「 うわ −−−−−− ・・・・ ! 」

 

    私の坊や。  さあ 帰りましょうね・・・・

 

「 ジョー!!?   < ジョー !!! > 

声を上げ、そしてすぐに脳波通信で呼びかけたが 応答はない。

通常に視力のレベルを最高に上げれば 宙に浮かんだオンナの姿がはっきりと見えてくる。

彼女は その腕にしっかりとジョーを抱え 嫣然と微笑んだ。

 

    私の坊やを返してもらうわ。  ふふふふ・・・

 

「 ・・・誰!? だれなの、アナタは!? 」

フランソワーズは スーパーガンを構えつつ スキをねらう。

「 なぜ ・・・ ジョーを?  彼を放しなさい! さあ、今すぐに! 」

 

    おや、ワタクシを撃つつもり? 

    ワタクシを撃ったら  ― この坊やはどうなるかしら?

 

    ふふふ ・・・ それに そんなモノでわたくしは倒せなくてよ。

 

「 ! はったりなんか聞きたくないわ! このくらいの高さ、彼なら充分余裕で着地できるわ! 」

彼女は 両手でスーパーガンを握った。

 

    ほほほほ ・・・・ ほほほ ・・・ 

    お馬鹿さん。  003、とかいったわね?

    お前、得意の <眼> とやらで見てごらん・・・

    坊やが今、どんな状態なのか !

 

「 ・・・ !! ジョー・・・!  ≪ ジョー! ジョー! 眼を覚ませて! 009! ≫ 」

途中から脳波通信で呼び掛けたが ― 009の身体はぴくり、とも動かない。

最大精度で <眼> を使い、003はきゅうっと唇を噛んだ。

内部機関は確かに正常に稼働している、しかし 彼は完全に意識を失っていた。

「 ・・・ ジョーになにをしたの!  ジョーになにかあったら 許さないわッ !! 」

 

    バ   −−−−−−− !!!

 

ついに003のスーパーガンが発射された。 

しかし ― その光線は奇妙にネジくれ あらぬ方向へ飛んでいった。

「 ・・・ な・・・に ・・?? 」

 

    ほほほ ほほほほ・・・・

    だから言ったでしょう? そんなモノはわたくしに一筋の傷もつけないわ

    やっと戻ってきたわたくしの坊や ・・・

    さあ おうちに帰りましょうね

 

「 ジョーをどこへ連れて行くつもり?!  ・・・ もう手加減、しないわ! 」

 

    バ   −−−−−−− !!!

 

003は実は射撃の名手だ。  彼女の放つレーザーは正確に女の薄紫に沈む眉間を狙った。

「 !? ああ ・・?? なぜ? ホログラフィ とも違うし実物が見えるのに・・・

 なぜ  なぜ あのオンナにはスーパーガンが効かないの? 」

 

    ほほほ  ほほほほ ・・・・

    およし およし 無駄なことは。

    おや、 その目はなに。

 

    はは〜ん ・・・ お前、 わたくしの坊やに手を出したね?

    ・・・ ふん ! そうかい ・・・ふん!

        どうしても 返してほしければ ・・・

    森の向こうのわたくしの城まで おいで。

    お前が辿り着いたなら、 考えてやらないことも ないわ。

 

    ま、その前に 獣に食われるか森で迷うか・・・ 

    ほほほ・・・ 怖気ついて逃げたっていいのよ?

 

    ほほほ ほほほ ・・・

 

瞬間  ― ふ・・・っと。  オンナの姿が消えた。

紫の裳裾を引き しっかりとジョーを抱いていたオンナは 忽然と中空に消えた。

 

「 ・・・ ジョー ・・・・!  」

どんなに眼を 耳を 使っても。  そこには ただ 緑深い森と木々を揺らす風が吹いているだけだった。

 

 

 

 

 

ゆらり ・・・  長いマフラーが 風に揺れた。

フランソワーズは ゆっくりと立ち上がる。   手近な木に掴まり 大地をきゅうっと踏みしめる。

 

     ― 行かなくちゃ。  泣いていても ・・・なんの解決にもならないわ

     フランソワーズ? あんたは 今、 一人なの。

     一人で なにもかも 相手にしなければならないのよ。

     ・・・ いつも側にいてくれるヒトを ・・・ 助けるために・・・!

 

     そうよ。  わたし。  ジョーのためなら何だって出来るわ!

 

しゅるり ・・・  彼女はマフラーを後ろに払うと ゆっくりと歩き始めた。

相変わらず緑の静寂のなか、フランソワーズは一歩 一歩 慎重に踏み出していた。

 

     ともかく この森をぬけなければ・・・ でも どうやって・・・・

     ・・・?  あら・・・? 水音が・・・ きこえる!

     小川がある! ・・・ これを辿れば 外へ出られるかもしれない

     池? ・・・ いえ あれは 沼かしら

 

 

003の眼は 前方にやっと森がすこしだけ疎らになっている空間を見つけ出した。

空を透視し、太陽の位置を確認してだいたいの時間と方角を知る。

ここが地球上だ、という確証はないのだが  ・・・ 

 

「 ・・・ この沼には ・・・ 多分動物たちが水を飲みにくるはずよね。

 あ・・・魚もいる!  それじゃ・・・獲物を捕りに人間が現れるかもしれないわ ・・・ 」

003はそっと水際に近づくと 水面に指を浸した。

「 ・・・あ 気持ちいい ・・・ これは普通の水よねえ・・・ 

 ほら あの睡蓮だってとてもキレイなのに。   なぜ ・・誰もいないのかしら。

 さっきの あの・・・ヒトがたった一人の人間なの・・・? 」

ぽちゃん ・・・ 足元の小石が沼に落ちた。

 

「 それは、 あの女魔法使いの仕業さ。 」

 

突然 声が聞こえ 003は慌てて周囲を見回した。  

「 !? だ、誰?? 今、わたしに話しかけたのは ・・ 誰?? 」

可視範囲内に人影は ない。  機械が設置されている様子もなかった。

「 ・・・ 誰?!  なにか また・・・トラップなの?! 」

スーパーガンを構え 彼女は油断なく沼の水面を睨んだ。

 

    ― ゲコ ・・!  ワタシ だ   ここだ。 

 

「 ・・・ え?  う ・・わァ ・・・ 

ほんの眼と鼻の先の水面が ちゃぽん・・・とゆれ睡蓮の葉の陰から一匹の カエル が顔を出した。

「 ウソ!? ・・・ か、カエルが ・・・ しゃべる??  」

「 ・・・カエルなどではないからだ。  人間の娘よ。 」

「 カエルじゃないって・・・ だってどう見てもカエルよ?  ・・・ロボット・カエル でもないわね。 」

「 当たり前だ。 ワタシはこの国の王子なのだ。

 あの女魔法使い の魔法にかけられ・・・ こんな姿に変えられてしまったのだ。 」

ゲコ・・・!  緑で ブチのあるでかいカエルは のっそりと睡蓮の葉に座った。

「 お、王子さま、ですって?? 」

「 そうだ。  私は国民を守るために先頭にたって闘い ・・・

 あの女魔法使いの誘惑をも断固! はねつけたため・・・余計に憎まれたのだ。

 そして アヤツは 私をこんな・・・醜いカエルに変えてしまったのだ・・・! 」

「 まあ ・・・ 誘惑・・・! 」

「 そうだ。 アヤツは見栄えのイイオトコには眼がなくて・・・イイオトコは必ず手を出す!

 私の国の民たちはすべて木や草、花、魚や鳥に変えられてしまった・・・

 最早 この世で口が利けるのは この私だけなのだ。 」

「 まあ・・・ なんて残酷な・・・ ! 」

「 そう・・・! 私を取り巻いているのは永遠の静寂・・・ 水の音は聞こえても

 風は歌いかけてくれても。 私の問いに答えるものはいない。

 ああ ・・・誰がために 闘うのか と・・・ 」

「 あ・・・そ、そうなんですの? 

 ( ・・・ちょっとアブナイ系かも・・・このカエル王子サマ・・・ ) 」

「 そう、私は悲劇の王子 ・・・ しかし、 しかし、だな、娘さん! 

 あやつめは こう言った!  オマエを心から愛する女性のキスで魔法は解けるでしょう、とな。 」

「 まあ ・・・ もしかして その魔法使いって・・・ 薄紫の衣をまとっているヒトかしら。 」

「 おおそうだよ、娘さん。  さあ 〜〜 キスしてくれ! 

 この世には もはや人間の娘はそなた一人しかおらぬ・・・ 」

  さあ・・・! と 大きなブチのあるカエルは んんん〜〜〜と唇を突き出してきた・・・!

「 え・・・ あ ・・・ あのぅ  ・・・き、きす ぅ〜〜 ?? 」

「 そうだ。  これは運命の出会いなのだ・・・! 」

 

     え ・・・・ どうしよう〜〜〜

     ・・・わたしって ぬめっとしたもの、苦手なのよね・・・

     それに この・・・カエル王子 ・・・ ちょっと・・・・ アブナい・・・

 

「 ?? さあ、 どうした、娘さん、 何を躊躇っているのかね?

 ・・・ ああ! そなたはファースト・キスも 未 なおぼこ娘 だったのか!? 」

「 ち・・・違います!  ・・・ ふん! 眼・・・眼を ・・つ つぶって・・・ え〜〜い ・・・! 」

 

      ・・・・ ち ゅ  ・・・・・

 

              ぼ  っ   わ  〜〜 んんん ・・・・!

 

甚だ気のないキスのあと、辺りは突然の黒雲に覆われて ・・・ ぽつぽつぽつ ・・・

遠くから雨粒が 落ちて来はじめた。

 

「 ― 娘さん?  よく ・・・ やってくれました。 」

 

「 ・・・ ぅ・・・・  あ ・・・ あらら?? 」

額に掛かる雨粒に フランソワーズがやっと眼を開いてみれば 眼の前には。

彼女の眼の前には  ―  凛々しい青年が 立っていた。

 

「 あ・・・ ??? あの。 あああ あなたが あの・・・ブチのカエルさん? 」

「 御意。 娘さん、 あなたのお蔭でこうして ・・・ 元の姿にもどれました。

 心から ― 敬意と感謝を。 そして 深い愛を捧げます ・・・! 」

「 ・・・ あ  あら ・・・ 」

青年は す・・・っと彼女の前に片膝を突くと彼女の手を両手で掬いあげ 恭しく口付けをした。

 

      ま  まあ ・・・!

      なんて古風だけど ・・・ 礼儀正しい方ね・・・・

      王子サマ、というのは本当かもしれないわ

      さっきまでの アブないカエルさん とは随分 ちがうのね?

      ・・・ 別人みたい ・・・

 

「 娘さん ・・ いえ 姫君。  お名前を伺う非礼をお許しください。 

 ああ・・・ 失礼いたしました。  私は フロリモンド。  この国の王子です。 」

「 あ ・・・ あの・・・わたしは フランソワーズといいます。  王子さま 」

フランソワーズはそっと手を抜くと 一歩下がり優雅に脚を引いて会釈をした。

「 おお・・・ フランソワーズ姫 ・・・! なんと美しいお名前でしょう! 

 お美しいこの花の顔 ( かんばせ ) にぴったりです、素晴しい・・・

 ささ ・・・ ご一緒にいらしてください!  私の宮殿にご案内します。  」

「 え ・・・ あ ・・・ あの? 

ひゅ・・・っと王子は指笛を吹いた。 すると ・・・ 森の奥から白馬の曳く馬車が現れた。

優雅な馬車だったが 御者は黒猫で恭しく扉を開けるのは白猫の従者なのだ!

「 さあ フランソワーズ姫。 どうぞ? 」

「 ・・・ あの? この方達 ・・・は? 」

「 ああ、そのことですか。 彼らの魔法はまだ解けていないのです。

 乙女のキス、は 私に駆けられた呪にしか効果はありません。 」

「 ・・・ はあ ・・・ 」

どうやら 呪 にもいろいろ種類があるらしい。

 

      このヒト ・・・ ちょっとだけ。  ほんのちょっとだけ・・・

      お兄さんに ・・・ 似てるかも・・・ 

      それにしても 黒猫と白猫・・・??

 

彼女は 警戒心もわすれぼんやりと王子サマやら馬車をながめていた。

「 姫君 お手をどうぞ。 」

「 あ・・・は、はい。   あららら・・?? 」

気がつけば フランソワーズ自身、優美に裳裾をひくドレスを纏っているではないか。

 

      な、なんなの〜〜 ??

      ・・・ あ そうか。  

      これ  夢なのよ。  うん、そうよ 絶対に。

      ジョーと一緒に寝ていたから 夢にも彼が出てきたのよね

      でも・・・ あの女魔法使いってさ・・・ もしかして ・・・ あの・・?

      ・・・ 似てたわよねえ・・・? あんまり思い出したくないなあ・・・

 

      あ。  そっか・・・ みんな 夢 よね?

 

      そっか。 それでこの王子サマ、 お兄さんに似てるんだわ

      ふふふ ・・・ 横顔と髪の感じなんてそっくり♪

      そうよ。 夢なら ― 楽しまなくっちゃ!

 

「 フロリモンド王子さま? それではお言葉に甘えまして・・・ 失礼いたします。 」

「 姫君 ― どうぞ。 」

手をとってもらい、フランソワーズはドレスの長い裾捌きも優雅に 馬車に乗り込んだ。

同乗した王子が 軽く合図を送ると、馬車はするすると動き始めた。

「 あの・・・ 王子さま?  お国の人々の魔法を解くには どうしたらよいのですか? 」

「 ああ。 それにはあの邪悪なるオンナ魔法使いを倒さなければなりません。 」

「 まあ! それではご一緒に 彼女を倒しに行きましょう! 」

フランソワーズは思わず馬車の中で腰を浮かしてしまった。

「 いやいや・・・ 魔法使いは簡単には殺せないのです。 不死身でおそろしいチカラを持っています。 」

「 でも! このままにしてはおけませんわ。 」

「 ひとまず、姫君? わが城でゆるりとお休みください。

 時に 何故姫君はお一人であのような森の中にいらしたのですか?  」

「 ・・・ あ!  忘れてましたわ!

 わたしもヒトを捜していたのです。  やっぱりあの女魔法使いに連れ去られてしまったの。 」

「 ほう・・・ それはいけませんね。 お気の毒に・・・  」

「 ですから! フロリモンド王子様、是非是非ご一緒に女魔法使い退治に参りましょう! 」

「 まあまあ・・・ そう興奮なさらずに。  ああ もう城です、ご覧ください。 」

「 え?   ・・・ まあ・・・! 

王子の示す方向を眺めれば 馬車の窓越しに天を突く大きな城が見えてきた。

「 さあ もうすぐです、フランソワーズ姫。  」

「 ・・・・ ・・・・・ 」

軽やかな轍の音を立てつつ、馬車は石造りの城へと進んでいった。

 

       ・・・ なにがなんだか・・・ よくわからないけど。

       夢、よね。  ええ、夢なら。 なんでもアリ、だわ〜〜

 

 

どこかで見たことがある・・・ような城が 目前に迫ってきた。

 

 

 

 

 

「 姫君 ・・・? お疲れですか。 」

「 あ ・・・ フロリモンド王子さま。  失礼いたしました・・・ ちょっと ぼうっとしておりましたわ。 」

フランソワーズは ふっと顔をあげ、声の主を見つめた。

 

眼の前には。  城の大広間での壮麗な舞踏会が繰り広げられていた。 

森の中の沼で 出会った一匹のカエル ( がもとにもどった ) 王子さまに案内され

フランソワーズはこの城にやってきた。

そして 

<世継ぎ王子の命の恩人> と 国王夫妻から感謝・歓迎され、たちまち大舞踏会開催、となったのだ。

「 それはいけませんね。  ・・・ おい、姫君にあの酒をお持ちしてくれ。 

微笑みつつ・・・王子は侍従に囁いた。

「 我が国秘伝の薬酒をお持ちします。 お疲れなど ・・・ この世の憂さなど吹き飛んでしまいます。

 そしてご一緒に 舞踏会を楽しみましょう。 」

「 ありがとうございます。 でも ・・・あの、王子さま? 国民の方々・・・ まだ動物、なのでしょう?

 やっぱり あの女魔法使いを退治しなくては! 」

「 姫 ・・・ 今夜はそのことは忘れて。  この宴を楽しんでください。

 両親もこの城に仕える者達も・・・ みんな 私の無事な帰還を喜んでいるのです。

 そして それは フランソワーズ姫・・・ あなたのおかげです! 」

「 あ ・・・ はあ ・・・ 」

王子は す・・・っと彼女の手をとり、優雅に口付けをした。

 

      ・・・ うわ ・・・

      なんか ・・・ このヒトの手って こう・・・ぬめっとひんやりするのよね・・・

      なにかに 似てるわ・・・ この感触 ・・・

      申し訳ないけど ・・・ あんまり好きな感触じゃないのよね・・・

 

「 ああ ・・・ 私の母の若い頃のドレスがとてもよくお似合いですね。 

 やはり将来の女王にふさわしい方だ・・・ うん、私の目に狂いはない。 」

「 はあ?  ・・・ あの・・? 」

フランソワーズはするり、と手を引っ込めた。  

この王子サマ ・・・かなりのイケメンで礼儀正しい青年なのだが ・・・ 微かに違和感がある。

豪華なドレスに身をつつみ、にこやかに談笑しつつ、フランソワーズは城の中を入念にサーチした。

 

 

       う〜ん ・・・ 古風だけど。  別に怪しい点は ないわねえ・・・

       でも どこもかしこも ・・・ よく知っているみたいな気がするのは なぜかしら。

 

       この大広間の舞踏会 とか このドレスも・・・

       ・・・ そうだわ、 子供のころ見ていた絵本とか・・・

       想像していた 王子サマとかにそっくり・・・

 

       ・・・ ふふふ・・・ そうそう、あの頃・・・

       いつだってお兄ちゃんが わたしの王子さま だったわ。

       オトナになったら。  

       ママンのマリエみたいなドレスで お兄ちゃんのお嫁さんになるんだ・・・って

       ずっと ずっと ・・・ 思ってたっけ・・・

 

 

そう ―  初めてきたはずのこの城は どこか見覚えがある気がし、懐かしいのだ。

「 姫?  さあ 薬酒が来ました。  どうぞ・・・ すぐに元気になられますよ。 」

「 ・・・ はあ ・・・ 」

侍従が銀盆を 捧げもってきた。

ぴかぴかの盆の上には クリスタル・グラスが深紅色の液体を湛えている。

「 どうぞ ・・・ ああ、ご安心を。 毒などではありませんよ。 」

「 あ ・・・ そんなことは思っておりませんわ。  では お言葉に甘えて ・・・ 頂戴します。 」

「 どうぞ。 」

フランソワーズは一瞬躊躇したが すぐにグラスを取り上げた。

そして きらきら光るグラスに口を着けた。

 

       ・・・・ あ ・・・ これ ・・・ワイン・・・?

       すごく いいワイン、じゃないかしら。

 

       あは ・・・心配して損しちゃった・・・

       これ 美味しいわぁ〜〜

 

「 ・・・ 如何でしたか? 我が国自慢の薬酒ですよ、すぐに身体が軽くなります。

 おお ・・・演奏が始まったようですね。 いずれもこの国の腕自慢な楽師たちです。 」

大広間の一隅から 澄んだ音色が響き始めた。

重厚だが心湧き立つ音色で フランソワーズは知らず知らずのうちに足を動かしていた。

王子はそんな彼女に微笑し、 す・・・・っと手を差し伸べた。

「 フランソワーズ姫。  踊っていただけますか。 」

「 ・・・ はい、 喜んで! 

王子は彼女の手を取るとするすると大広間の中央に出ていった。

 

       まあ ・・・ この方 ・・・ 上手だわ〜〜

       ・・・・ ふふふ ・・・ ダンスなんて ほっんとうに久し振り・・・

    

       そうねえ・・・ 昔 ・・・ リセのヴァルで踊って以来、かしら

       ああ ステップ ・・・ 覚えているかな・・?

       バレエとは違って ちょっと苦労したわよね

 

       ・・・ たまには 踊りたい な。

       ふふふ ・・・ ジョーとダンス、なんて考えられない  けど

       ・・・ でも 時々  そうよ、ほんのときたま でいいのよ。

       一緒にダンスしたり 音楽会に行ったり。

       バレエやオペラ、観にいったり ・・・ したいのに ・・・って

       ・・・ あの頃  みたいに ・・・

       一生懸命オシャレして 普通の女の子として デート ・・・したいのに

       

 

広間中央にでてきた二人の姿に気づき 楽師たちは飛び切りまろやかな音色を奏で始めた。

ざわざわと談笑していた人々の声が 次第に小さくなり ・・・ 聞こえなくなった。

礼装の紳士・淑女の見守る中 ・・・ もれ聞こえる感嘆の吐息の中 ・・・ 二人は踊り続ける。

 

フランソワーズは裳裾を翻し 軽やかにステップを踏んでゆく。

最初は王子との息が合わず、ぎこちない動きだったが ― すぐに二人は音の波に乗った。

 

実際 王子のリードは見事なもので、彼女が多少ステップに迷っていても

何気なく 次のポジションに進めていってくれるのだ。

 

       すごいわ ・・・ 

       何回もリハーサルしたみたい ・・・ !

       ・・・  ああ  ステキ。  音が ほら・・・ 身体の中にしみこんでくるわ

 

彼女もすぐに音とパートナーのリードに身を任せ 舞ってゆく。

 

この特殊な身体に改造され。 闘いに明け暮れる日々の後・・・

 ― ともかく 一応平穏な日々を送れるようになって・・・ もうどのくらい経ったのだろう。

それは とても幸せなことなのだけれど・・・

それは 本当に幸せな日々なのだけれど。  

それは  ・・・ 望んでも仕方のないことなのだけれど。

 

       ・・・ 還りたい ・・・!  あの日々 に・・・・

       どこにでもいる、 当たり前の女の子として生きていた日々に 

       泣いて 笑って 怒って。

       毎年 ひとつづつ 年老いてゆける 日々 に・・・

 

ほろり ・・・ 目尻から瑠璃の玉が落ちた・・・

「 ・・・ 姫。 お上手ですね。 」

「 王子さま。 あなたのリードが素晴しいからですわ。  ああ ・・・ ステキ・・! 」

「 あなたのお御脚には羽が生えているようだ・・・ 軽やかでリズミカルで・・・ 素晴しい! 

 やはり この国の女王に相応しい方だ・・・ 」

「 ?? なにかおっしゃいまして? 」

「 いえいえ・・・お上手だ、と感心していたのですよ。  おや・・・ おねむですか?

 美しい瞳が 欠伸をしていますね・・・ 」

「 ・・・ え  ええ・・・・ なんだか急に ・・・ 眠くて・・・ あ・・・ 失礼 ・・・ ふぁ ・・・ 」

「 いえいえ ・・・ それでは陰のソファでお休みください。 」

「 ・・・ え ・・・? 」

王子は 巧みに彼女をリードし、広間の一隅に設えてある帳の陰につれていった。

 

 

何気なく羽根布団を置いた猫足のカウチが待っていた。

「 ・・・それでは ・・・ちょっと だけ ・・・ 」

「 どうぞ、姫。 ごゆっくり・・・私は失礼しますから。 どうぞ・・・ この絹の上掛けを・・・ 」

王子は フランソワーズをカウチに座らせると純白の絹布を肩にかけ、帳の外に出ていった。

「 まあ ・・・ ありがとう ございます ・・・ ふぁぁ・・・ あ ・・・いやだわ 

 どうしてこんなに 眠いの かし  ら ・・・ 」

   ― ぱふん ・・・

結い上げた髪を 絹の枕に落とし彼女はたちまち寝入ってしまった。

 

 

 

     ・・・・ ん ・・・? 音楽 ・・・ ああ パパのご自慢のレコード ・・・ね ・・・

優しい音が ちょっと古ぼけた調子で聞こえてくる。

「 そうじゃないってば! ファン、ここは僕のリードに任せろよ! 」

「 いた・・・! 足 踏まないでッ! お兄ちゃんってば ヘタクソ! 」

「 ヘタクソなのはファン!  一人で踊るなよ〜〜 」

「 あら だって。 ここはピルエットでしょう? 」

「 ピルエット・・って。 ここは ターンだ、僕のリードで動けってば 」

「 いやよ。 お兄ちゃんのリード、音に合ってないもの! 」

「 コイツ〜〜 」

兄と妹は組んでいた手を離し 睨みあっている。

妹は まだやっとオトナの腰くらいまでの背丈、 兄も長ズボンがぎこちない。

 

「 こらこら・・・ 喧嘩するなよ。  ファン? これはバレエじゃないんだよ。 」

「 だって パパ! 同じ踊りでしょ!  」

プレイヤーの側から 中年の男性が立ち上がる。

「 いやいや。  ジャン?  リードはそんなに強引に引っ張ってはだめだ。

 うん ・・・ ちょっと替われ。 ジャン、プレイヤーを頼む。 」

「 ・・・ わかったよ パパ。 」

濃い目の亜麻色の髪をゆすり、兄息子はしぶしぶ部屋の隅に座った。

代わりに父が ソファを片寄せて作った空間に歩み出てきた。

そして。  ― 膨れっ面でたっている小さな妹娘に 恭しく会釈し ・・・

 

「 マドモアゼル? 踊っていただけますか。 」

 

古ぼけた音が 流れ始めた。

「 ・・・ うわ・・・・ パパ ・・・ すごい・・!  うそ〜みたい・・・ 」

「 ほら・・・ファン? もっとパパの動きに合わせていいんだ。  そう・・勝ってに進まない・・・ 」

「 うん、わかった・・・うわ〜 うわ〜ステキ ♪ 」

父はパートナーには背の足りない娘を 軽々とリードしてゆく。

「 ジャン? ほら・・・こうやって ・・・ パートナーをやんわりと押し出してゆくんだ。

 力で引っ張るのじゃなくて。 音に合わせて一緒にうごく ・・・ いいな。 」

「 うん!  うわ・・・・ パパ ・・・ すごいや〜〜  」

兄はプレイヤーの脇に立ち上がり 父の流麗な動きに目を見張っている。

「 すげ〜 ・・・ ファンが上手に見えるもんなあ・・・ 」

「 お兄ちゃん!!  べ〜〜だ・・・! パパは羽みたに軽いステップのパートナーよ!

 ぐいぐい押して足を踏んづける誰かさんとは大ちがい! 」

「 ・・・ コイツ〜〜 ! 」

「 こらこら 喧嘩するな。   ・・・ で これがワルツさ。

 つぎは ・・・ そうだなあ もっと華麗にウィンナ・ワルツ、 と行くか。 たしかレコードがあるぞ。 

 え〜と ・・・こっちのキャビネットだったかな。 」

父は身軽にプレイヤーの側に駆け寄ると・・・すぐに新しい曲が流れ始めた。

「 うわ〜〜ステキ! わ ・・・でも ・・・ 難しそう ・・・」

妹娘はあまりに豪華な音に 気後れしている。

 

「  ― パートナー チェンジよ。 」

 

兄妹の後ろから 優しい声が響いた。

「「 ママン !? 」」

「 お ・・・ これはこれは。  では。  マダム? お手をどうぞ。 」

「 喜んで ! 」

 

父は慇懃に母に向かい身をかがめると す・・・っと手を差し伸べた。

母は微笑み 買い物帰りの恰好のまま父の肩に手をかけた。

 

   そして。   大時代な三拍子に乗り 二人はするすると踊り始めた。

 

「 ・・・ すげ ・・・  パパも ママンも ・・・ すげ〜〜〜 」

「 パパ ・・・ステキ!  ママン、なんて軽く動くの〜〜 」

兄妹は 言い争いのタネもしっかりと忘れ ― ひたすら両親の姿に見とれていた。

二人の目の前には 普段の父と母、ではなく、熱く見詰め合う一組の恋人たちが踊っている・・・

「 ・・・ えっへん ・・・!  あ〜・・・ふ、フランソワーズ・・? 」

「 え。 なあに、お兄ちゃん。 」

突然 兄が背筋をのばし妹の前に立った。  えっへん ・・・と咳払いを繰り返し ―

「 あ〜  マドモアゼル・フランソワーズ?  踊っていただけますか。 」

「 ?! え  ・・・あ・・・ は、はい♪ お兄ちゃ・・・じゃなくて ムッシュウ・・・ 」

ちいさなカップルは ぎこちなく踊り始めた。

 

 やがて ― 

 

パリのあんまり新しくはないアパルトマンの一室に 華麗なる三拍子が流れ続け ・・・

大小二組のカップルが ステップを踏む。

 

母はうっとり父の顔を見つめ 父は軽々と母をその腕に抱き 

兄は生真面目な顔で妹の腕をとり 妹もぎこちなく兄に付いてゆく ・・・

 

「 ・・・ファン ・・・ ファンってば。 」

「 ・・・ な あに ・・・ お兄ちゃん ・・・ 」

「 眠っちゃだめだ! ・・・ 起きろ。 起きて ・・・ そこから脱出するんだ・・・! 」

「 え? ・・・ お兄ちゃんったら 何言ってるの??

 ・・・ あ ・・・あら?? お兄ちゃん ・・・? パパ ・・・ ママン ・・・  どこ・・・ 」

「 フランソワーズ! 起きるんだ。  そこは   き   け    ん     だ  ・・・・ 」

「 ? ジョー?? ジョーなの? どこにいるの? え・・・・ これ 脳波通信 ? 

 ちがうわね ・・・ ジョ − −−−−! 返事して !! 」

 

 

    ―    あ   

 

 

ぽっかり目が開けば。  そこは羽毛布団をしいたカウチの上 だった。

するり ・・・ 白絹の上掛けが肩から落ちた。

 

    ・・・ 夢 ・・・?  

    そ ・・・うか ・・・ 夢の中でまた夢を ・・・ 見ていたの? 

 

  < そこから 脱出するんだ! >

 

ふいに兄の声が そして恋人の声が  聞こえた。

「 え・・・? 脱出って・・・  フロリモンド王子さまはどこかしら・・・ 」

フランソワーズはそろそろとカウチから身を起こし 帳の側に寄った。

帳の外は やはり休息する場になっていて繻子張りのソファが置いてある。

国王夫妻が ゆったりと腰をかけているのが窺えた。

 

    王子さまは ・・・ 声をかけても失礼じゃないかしら・・・・

    あら ・・・? ああ ・・・ 彼はこっち側のソファにいるのね・・・

 

フランソワーズはそっとドレスの裾を直したり 髪のほつれを整えたりしつつ帳の外に耳を澄ませた。

 

    立ち聞きははしたないけど。 今は一応ミッション中だから・・・ いいわよね?

    えっへん、 これは索敵作業なので〜す・・・ と。

 

<耳> を使うまでもなかったので 通常の聴力をレベル・アップする。

 

「 王子よ。 あの姫はどうした。  たいそう美しい気品ある姫ではないか。 」

「 父上 ・・・ フランソワーズ姫はただいま 休息中です。 」

「 ・・・ フロリモンド?  そなた、あの姫をもうモノにしたのかえ? 」

「 は、母上・・・! そ、そのようなこと・・・ 

「 いや、 王子よ? あの姫・・・ いや、 人間の娘を妃にすれば

 我ら一族は 本当の人間になれるのだ!  

 我々の運命は ひとえ王子よ、そなたの肩にかかっておるのだぞ。  」

「 ち、父上 ・・・ 」

 

      ええええ〜〜〜〜 ?!???

      ほ、本当の人間 ってことは・・・

 

フランソワーズは震える足を踏みしめ、 そうっと そうっと・・・ 息をも潜め帳の間から再度 外を覗いた。

 

             げこ・・・! 

 

      ・・・・ う ・・・・っそ ぉ ・・・・・!!!

 

先ほどと外の様子は寸分も変わってはいない、のだが。  

繻子張りのソファには  王冠を頂いた・ガマガエルが やはり宝冠をつけたカエルをと一緒に座っていた。

そして 手前にはあの! 森の中の沼でであったブチのカエルがキョロキョロと眼とまわしている。

 

「 そなた、森の沼では上手柄であった。 さすがワシの息子・・・ この国の王子じゃ。

 あの娘のキスの力で我らは人間の姿になった。  

 これを永久のものとするためにも!  そなた、あの姫を妃にするのだ。 」

「 はい、父上。 」

「 ほほほ・・・なかなか愛らしい娘さんでしたものね。 きっと可愛い王子や王女達が

 沢山生まれますよ。  皆で小川で泳いだらいいわ。 」

「 はい、母上。  ご期待に沿うよう、努力いたします。  」

 

会話の声は人間だが。  眼の前にいるのは間違いなく!  か  え  る ・・・。

 

 

      ・・・ 冗談じゃないわ〜〜〜 

      いや〜〜 わたし! 

      ホンモノのカエルと キス しちゃったわけ?

      あのブチのカエルと ダンスしたわけ??

 

      ・・・ ううう・・・・  逃げるわ!!

     

フランソワーズは素早く帳の奥へと身を潜め、まずこの大時代なドレスを脱ぎ始めた。

 

 

 

「 ・・・ 姫?  フランソワーズ姫・・・お目覚めですか? 

 夜食を用意させました。 お口に合うかどうかわかりませんが ・・・ 」

帳の外から フロリモンド王子は遠慮がちに声を掛ける。 

「 ・・・ 姫? ・・・まだ お休みですか。  

 あの薬種には ほんの少し眠りの精の粉を混ぜただけなのだがな・・・・

 姫 ・・・ ご無礼をお許しください・・・ 」

ウンともスンとも応えのない状態に痺れを切らし、王子はこそ・・っと帳に手をかけた。

「 ・・・ いずれこの私の妻となる貴女ですから・・・ その寝顔を拝見するのもまた一興・・・ 

 ??  姫?  フランソワーズ姫?? 」

 

カウチの上には。  豪華なドレスが脱ぎ捨てられていた。 そして ・・・

 

「 姫? どこへ??  ここにはドアはないはず・・・・  ああ?!! 」

 

帳の奥の壁には窓が一つだけあり ―  大きく開け放ってあった。

「 ま まさか・・・!? 」

王子は血相を変え窓辺に駆け寄った。

「 ・・・ あ? ・・・ ああ ・・・ そう ・・・か。  

 実に 姫は。 古典的な手法で脱出されたのだな ・・・ 」

ぷらん ・・・ と王子が窓から手繰り寄せたものは ― シーツを裂いて結び合わせたロープ。

 

「 ・・・ そっか。  ゲコ ・・・! やっぱり手の届かないヒトだったんだ・・・

 君は魔法使いの城に行ったのだね。

 ・・・  うん ・・・ 僕にできることは君の幸運を祈ることだけ さ ・・・ 

 さよなら ・・・ そして ・・・ Good Luck ・・・! 」

王子は窓辺で 風にむかって呟いていた。 

・・・ やはり フランソワーズの直感どおり ― カエル王子はすこしばかり アブない系王子 ・・・らしい。

 

 

 

    カッ カッ  カッ カッ  カッ カッ  カッ カッ  −−−− !

 

白馬が地を蹴って駆けてゆく。

その背には亜麻色の髪を靡かせた 美少年 ― いや 美少女がひとり。

赤い特殊な服に マフラーを風に泳がせ。

        森の外にあるという魔法使いの城目指して ・・・! 

 

「 ・・・ ジョー ・・・・! 今、行くわ!  今、 助けに行くわ! 」

 

    カッ カッ  カッ カッ  カッ カッ  カッ カッ  −−−− !

 

白い稲妻が 緑の大地を切り裂いて行く ・・・

 

 

 

 

「 ・・・ 坊や?  お目覚めかい。  ああ ・・・ 私の可愛い坊や。 」

「 ・・・ あ ・・・ なた ・・・は・・・・? 」

ジョーはむせかえるほどの芳香の中で ぼんやりと眼を開けた。

眼の目には白く柔らかく豊かな胸が ― 彼を迎えてくれている。

「 私 は  あなたの 母です 」

「 ・・・ お  かあ  さ  ん ・・・・ ぼく の  お か あ さ ん ・・・・ 」

彼は そのまま温気たゆたう白い谷間に顔を埋めた ・・・

 

 

 

Last updated : 06,01,2010.                  index         /        next

 

 

***********    途中ですが・・・

す、すみません〜〜 いろいろと!!

終りませんでした。  そして ひで〜ぱろでぃです。 そして お笑い系かも?

はい、原作あのオハナシです〜〜(^.^)

・・・だってね。 あの夜、 ど〜して二人は別々に寝てるわけ?

ですから? コレは 【 惑星 0093 】 であります〜〜(^_^;)

後半も シリアスになると期待しては ・・・いけません♪

お宜しければあと一回 お付き合いくださいませ。

ご感想〜〜〜 ひと言なりとでも頂戴できれば  狂喜乱舞〜〜<(_ _)>